のべ8000万人超が利用するO2O基盤を展開!地域通貨ソリューションで次の種まきを行う「アイリッジ」

アイリッジ

オンラインクーポンで店舗への来店を促すといったように、ネットを活用した集客・販促向けソリューションを提供する「アイリッジ」について見ていきたいと思います。

2018年7月期上半期の決算説明資料

創業者の小田健太郎氏は1975年生まれ。

慶應大経済学部を卒業後、NTTデータで5年間システムの営業をしていました。

その後、大手コンサル企業の「ボストン・コンサルティング・グループ」に入社。

モバイル業界を中心に、事業戦略、新規サービス立ち上げなどを行なっていました。

サラリーマン時代から独立を意識していましたが、起業のネタが見つかりませんでした。

32歳のとき、ここで起業しなければ一生しないだろうと考え、何をするかを決めずにボスコンを辞めました。


2008年に「株式会社 アイリッジ」を設立。

社名に含まれるリッジ(Ridge)とは地球プレートが発生する海底山脈のことで、この海底山脈は地球によって創られます。

地球が海底山脈を創り続けるように、私たちも世の中に新しい価値を創り続けていきたいという想いが込められています。

2009年にプッシュ型情報配信サービス「popinfo」をフィーチャーフォン向けに提供開始。

2010年に位置情報を利用して配信エリアの設定を可能にしました。

しかし、フィーチャーフォンの制約の多さからスマートフォンの時代が来ると考え、2010年にスマートフォンに対応。

その後大きく業績を伸ばし、2015年にマザーズに上場しました。


アイリッジの業績推移を見てみましょう。

2012/7期の売上高は8623万円でしたが、2017/7期には14億9335万円まで増加。この5年間で売上高は17.3倍に。

経常利益は2012/7期のマイナス1760万円から、2017/7期には2億1153万円の利益まで増加。


今回のエントリでは「O2O」というジャンルで成長を続けるアイリッジの事業や財務状況、今後の展望について見ていきたいと思います。


アイリッジの事業

アイリッジはインターネットを活用した店舗への集客事業を行なっており、それを「O2Oソリューション」と呼んでいます。

O2Oソリューションのプラットフォーム『popinfo』は、GPSなどの位置情報と連動して、スマートフォンにプッシュ通知を配信。

ユーザー属性などで配信対象を絞り込むことができ、個別のユーザーに最適化された情報を配信可能。

『popinfo』はASPとして月額課金による提供が行われているほか、企業向けにO2Oアプリの企画開発や、アプリのマーケティング支援・コンサルティングも行なっています。

つまり、アイリッジのO2Oソリューション事業は「O2Oアプリの導入(企画開発)」という初期収益に加え、「プラットフォーム(popinfo)の月額報酬」「マーケティング支援」という報酬を継続的に受け取るというモデル。

収益の安定性は非常に高そうです。

公式ホームページより)

ZOZOTOWNや東急線、ファミマやシダックス、ジーユー、三菱UFJ銀行などそうそうたる大手企業が導入しています。

月額報酬と開発・マーケティングそれぞれの売上高を見てみましょう。   

2017/7期は、月額報酬が4億8489万円に対し、アプリ企画・開発やコンサルなどが10億845万円の売上をあげています。

月額報酬が積み上がってきてはいるものの、まだまだ受託開発やマーケティングコンサルティングなどの収益が大きいことが分かります。


一部の大手企業への依存率は大きそう。


『ジーユー』向けに2.43億円(2017/7期)、三井不動産向けに1.43億円(2016/7期)の売上をあげています。

四半期ベースで見ると、月額報酬が着実に積み上がって来ていることがさらによく分かります。


ここで、『popinfo』のユーザー数推移を見てみます。

公式ホームページより

popinfoを利用しているユーザー数は8000万を突破。なぜこんなに数字が大きくなるかというと、アプリごとのユーザー数を合計しているから。

2017/7期では1年間で2,200万増加となっています。


2017/7期の月額課金売上が4億8489万円、2017年7月時点でのユーザー数は6,700万ですので、1ユーザーあたりの月額報酬売上は7.23円。

一人当たり年間7.23円で消費者にリーチできると考えれば、かなりお得なソリューションということができます。

300アプリ超に導入となっていることから、アプリあたりの平均ユーザー数は27万程度ということに。


財務状況

財務状況を確認するために、バランスシートについて見てきたいと思います。

2017年7月末時点での総資産は13億1729万円あり、現預金は8億9124万円。

とてもキャッシュリッチであることがわかります。


資産の源泉である負債・純資産の内訳も見てみましょう。

2017年7月末時点において、資本金と資本剰余金の合計7億1275万円、利益剰余金3億3228万円となっています。

自己資本比率は79.7%となっています。


続いてキャッシュフローも見てみましょう。

2017/7期において営業キャッシュフロー2億9463万円、投資キャッシュフローマイナス6749万円、財務キャッシュフロー747万円となっています。


財務キャッシュフローが2014/7期8354万円、2015/7期3億3064万円の詳細を確認してみましょう。

左の列が2014/7期、右の列が2015/7期となっています。

どちらも株式発行による収入であることがわかります。


また、営業キャッシュフローがあまり安定しない点も気になります。2015/7期と2016/7期の内訳を見てみましょう。

税引前当期純利益は1億3724万円と2015/7期より増加。

しかし、売上債券(9852万円)や仕入債務(3551万円)、法人税等の支払(6337万円)などが営業キャッシュフローを大きく押し下げています。


フリーキャッシュフローも見てみましょう。

2017/7期において2億2719万円となっています。

2016/7期は営業キャッシュフローが2015/7期や2017/7期に比べて少なかったため、フリーキャッシュフローがマイナス3150万円となっています。


アイリッジの直近での時価総額は96億4400万円となっています。


今後の展望

最後に、アイリッジの成長戦略について見ていきたいと思います。

「O2O事業の進化」「新規事業・サービスの創出」「組織力の向上」「M&A」の4つを掲げています。戦略としては至極まっとうです。


まず、既存のO2O事業をどのように進化させていくのでしょうか。

まず背景として、O2Oアプリが浸透して行く中で顧客の機能や効果に対する期待が高くなっているとのこと。

そこで、より効果の高いマーケティングサービスを提供するための運用面、コンサル面での支援を注力していくとのこと。

やはり大手が顧客ということで、どうしても人力でのサポートが重要ということでしょうか。

これまでは『popinfo』プラットフォームやアプリ開発など、テクノロジー面での支援を中心としていました。

今後やマーケティング戦略のコンサルティングや、運用(分析など)面での支援をさらに拡大して行く構えです。


続いて「新規事業・サービスの創出」について。

具体的には、『MoneyEasy』、位置情報を活用した行動分析ソリューション『ジオリーチ』の二つに取り組んでいます。

電子地域通貨プラットフォーム『MoneyEasy』とは?

『MoneyEasy』は、特定地域のみで使うことのできる「地域通貨」のプラットフォームで、スマートフォンアプリで、チャージから決済までが可能になります。

加盟店舗でお金をチャージしたら、各店舗などでQRコードを使った決済が可能となります。

店舗はQRコードさえ設置すればよいため、導入費用が安くて済みます。結果として、決済手数料もかなり安価に設定可能。


背景として、いわゆる「スマートペイメント市場」の拡大があります。

そのほとんどはクレジットカードですが、2023年には合計で114兆円(現在は73兆円)にまで拡大する見込み。

昨年の11月、ハウステンボスが採用することが決まっています。その名も「テンボスコイン」。

プレスリリースより)

それ以前にも、飛騨信用組合が認証実験を行なっています。

内容は、飛騨信用組合の職員に実店舗で飲食の支払に使える「さるぼぼコイン」を付与するというもの。

対象は高山市、飛騨市の41店舗で、通貨の消化率はほぼ100%しており、2018年12月から商用での開始予定となっています。

ちなみに、「さるぼぼ」とは飛騨高山地方で昔から作られる人形のこと。

「ぼぼさ」というのが赤ちゃんを意味する言葉で、「猿の赤ちゃん」みたいやっつうて、「さるぼぼ」って言うようになったんやさとのこと。


その他にも認証実験が進んでいるようです。


ハウステンボス以外の参加企業が地味なのは気になりますが、上記の事例が成功すれば、他にも導入したいという大企業が現れるかもしれません。


まとめ

現時点でのアイリッジの戦略についてまとめると、以下の二つに集約されると思います。

・既存事業では、マーケティング戦略やデータ分析を基にした運用などのサポートを行うことで、サービスの付加価値を拡大

・新規事業として、地域通貨プラットフォーム『MoneyEasy』を展開


今後は、O2Oで培った技術やノウハウを活用して、FinTech領域への取り組みも強化していく構え。


O2Oソリューションを名だたる大手企業に導入させ、事業を伸ばして来たアイリッジですが、逆にいうとそれでも売上15億円程度にしか達していません。

今後の戦略も労働集約的に見えますし、大きく化けるためにはFinTech領域の成功が欠かせないのかもしれません。(うまくいくにしても時間かかりそうだけど)