今回は、野菜や花の「タネ」を生産販売するユニークな企業、「サカタのタネ」についてまとめたいと思います。
サカタのタネの歴史は古く、創業から100年を超えています。
生産する「タネ」の国内シェアはブロッコリー75%、大玉トマト40%、ホウレンソウ50%。
国内で流通している野菜や花の多くが、サカタのタネで作られたタネからできています。
(ホームページ)
・創業まで
創業者の坂田武雄氏は1888年、東京生まれ。
帝国大学農科大学実科へ進学すると、寄宿舎で3年間の学生生活を送っていました。
しかし、実家の家計の苦しさを見るにつけ、卒業後は独立して商売を始めた方がいいのではと考えます。
そこで卒業と同時に農商務省の海外実業練習生に応募して合格。
これを機に海外で園芸や種苗の基礎を学んでこようと考え、1909年にアメリカに渡ります。
アメリカではヘンリー・A・ドリアー社のアイスレー社長のもとで過酷な労働に耐え抜き、苗木事業の実務を学びました。
帰国する頃には「苗木会社を起業しよう」と決心しており、1913年に24歳の若さで設立したのが「坂田農園」です。
・苗木から始まり、種子にピボット
横浜に農地を借りて苗木の輸出を始めますが、3年たっても利益を出せず、経営は苦しいまま。
そんな中で1914年から球根の輸出をはじめ、最初のヒットとなります。
同時に「苗木」を商売にする問題にも気づきます。
種子を販売すれば、苗木より早く結果がでるはずだと考え、1916年に種子の販売を開始。
それでも資金繰りは苦しい中、実業家の大倉和親氏(TOTO初代社長)と森村市左衛門氏(森村財閥創設者)などの援助を得て、「坂田商会」を設立。
1921年には「発芽試験室」を設け、事前に種子の発芽率をチェックして商品に記載することで信頼を高めます。
・高価なペチュニアの開発に成功
商売は徐々に軌道に乗り、特にアメリカで日本野菜の評判が上々。
海外の種苗会社から種子生産の委託を受けながら、自社でも品種改良を続けて行きます。
その中に南米原産の「ペチュニア」がありました。
(こういうやつ)
当時、ペチュニアは日本では育成されておらず、100%八重咲き(花びらがいくえも重なって咲くこと)になるものはありませんでした。
そんな中で武雄氏は、世界初の100%八重咲きのオール・ダブル・ペチュニア「ビクトリアス ミックス」を完成。
オール・ダブル・ペチュニアは「サカタマジック」と賞賛され、世界中の種苗会社から注文が殺到します。
価格は1ポンド1万656ドルにのぼり(1935年)、同じ重さの金の20倍にあたるほど高価なものとなりました。
・美味しいメロンを開発
1942年には国策として企業の統合が推奨され、坂田商会を解散。4社と合同して「坂田種苗(株)」を設立し、武雄氏が社長となります。
しかし、1945年の横浜大空襲で社屋を焼失すると、当時56歳の武雄氏は社長を辞任。
家族とともに山中湖の別荘に疎開してしまいます。
戦後の1947年、後を託していた麻生社長に促され、社長に復帰。
1950年には「直売部」をもうけ、1951年には日本の園芸店の先駆けとなる売店部(現在のガーデンセンター横浜)を設けます。
1962年にはメロン「プリンス」を発売し、日本のメロンの常識を変えます。
1965年に創業者坂田武雄が外国人で初めてメダリオン・オブ・オナーを受賞。
オールアメリカセレクションズ「メダリオン・オブ・オナー」は、世界の園芸業界において大変名誉な賞。野球の世界に例えれば"殿堂入り"に 匹敵する非常に価値のあるものです。
その後も、キャベツやホウレンソウ、ハウスメロン「アンデス」など、新たな種子を次々に開発し、1986年に社名を「(株)サカタのタネ」に変更。
翌年1987年に東証二部に上場しています。
その後は、ブラジルのアグロフローラ社(1994年)、コスタリカのフローラ・フェリス社(1996年)、イギリスのサミュエル・イェーツ社(1996年)などを買収するなど、M&Aも行なっています。
それでは、サカタのタネの業績推移を見てみましょう。
売上高は2005年から2012年までほとんど横ばいで、470億円前後で推移していました。2013/5期以降は再び増加基調に転じ、2017/5期には618億円に達しています。
また、経常利益率は5%前後だったのが12%以上にまで拡大し、収益性を大きく改善しています。
「タネ」の開発でグローバル企業に成長した「サカタのタネ」の事業が一体どうなっているのか、調べてみたいと思います。
サカタのタネの事業は「国内卸売」「海外卸売」「小売」「その他」の4つに分けられます。
①国内卸売事業
野菜や花の「タネ」を生産し、国内の種苗卸会社に卸売する事業です。
種苗卸会社は種苗を地域のJAや生産農家に販売を行う種苗小売会社にタネを販売しています。
また、よりよい商品の生産や商品価値を高める販売方法を提案などトータルサポートも展開。
品種を栽培する生産農家への指導や講習会も行っています。
日本国内には4か所の支店と3か所の営業所・事業所があります。
②海外卸売事業
世界中にサカタのタネの営業拠点と研究農場があり、素早く高品質なタネを安定供給できるように世界各地に生産地もあります。
世界中の営業ネットワークを通じて、170ヶ国以上に野菜や花のタネを販売。
世界を「北・中米」「南米」「アジア・オセアニア」「ヨーロッパ・中近東・アフリカ」の4つのエリアに分割しています。
③小売事業
タネ・苗・園芸用品をホームセンターなどの量販店に販売するほか、通販や直営店による販売を行なっています。
直営店の横浜市神奈川区にあるガーデンセンター横浜は、昭和26年にオープンしている大型ショップです。
オンラインショップでも一般家庭向けに様々な品種のタネや園芸用品を扱っています。
④その他事業
そのほか、公園・住宅・商業空間の造園設計・施工・管理、人材派遣や青果物の生産・販売も行なっています。
それでは、セグメント別の売上を見てみましょう。
海外卸売事業の売上高が最も大きく、187億円(2011/5期)から352億円(2017/5期)まで増加しています。
一方、国内卸売事業の売上は160億円前後で、ほとんど変化がありません。
サカタのタネの売上増加は海外卸売事業の増収によるものであることがわかります。
続いて、セグメント利益も見てみましょう。
国内卸売事業のセグメント利益はは61億円(2011/5期)から、52億円(2017/5期)まで減少。
一方、海外卸売事業は一時期縮小したものの、2017/5期には103億円の利益を稼いでいます。
小売その他の事業による利益は小さく、稼ぎのほとんどは海外卸売事業であることがわかります。
地域別の売上についても見てみましょう。
2017/5期では日本265億円、北中米112億円、欧州・中近東91億円、アジア83億円、南米42億円、他地域23億円となっています。
日本においての売上高は、284億円(2012/5期)から265億円(2017/5期)まで減少しています。
海外の地域に注目して見てみましょう。
北中米は56億円(2012/5期)から112億円(2017/5期)まで増加。
アジアも33億円(2012/5期)から83億円(2017/5期)まで増加。
欧州・中近東は2015/5期に減少していますが、56億円(2012/5期)から91億円(2017/5期)まで増加。
南米も2015/5期に減少していますが、27億円(2012/5期)から42億円(2017/5期)まで増加しています。
海外の全体の地域で増加していることがわかります。
財務状態を確認していくためにバランスシートを見てみましょう。
総資産1161億円に対して、現預金は221億円。
商品および製品が247億円と大きいほか、有形固定資産も287億円あります。
これらの資産はどこからやってきたのか、資産の源泉である負債・純資産を見てみましょう。
利益剰余金が719億円と最も大きく、資本金と資本剰余金の合計は243億円となっています。
大きな借入金はなく、自己資本比率は81.0%となっています。
キャッシュフローを見てみましょう。
営業キャッシュフロー76億円、投資キャッシュフローがマイナス29億円、財務キャッシュフローはマイナス20億円となっています。
フリーキャッシュフローを計算すると直近では51億円となっています。
2016/5期では営業キャッシュフローは43億円と前年度の41億円から増加。
しかし、固定資産取得による支出がマイナス32億円となっているため、フリーキャッシュフローは11億円と前年度の21億円から減少しています。
有形固定資産の取得による支出が2015/5期18億円から2016/5期30億円に増加。
固定資産の内訳を見てみると土地が13億円から14億円に増加しています。
サカタのタネの株価は上昇傾向にあります。
直近の時価総額は2006億円。借入金41億円、現預金221億円を考慮すると、実質的な評価額は1826億円と計算できます。
年間で76億円の営業キャッシュフローを生んでいるので、その24倍の評価額が付いていることになります。
「種苗会社」と言われてもあまりイメージがつきませんでしたが、その歴史はたゆまぬ品種改良の歴史。
その結果が、ブロッコリーのタネで60%、トルコギキョウで75%という圧倒的な世界シェアにつながっていることを考えると胸が熱いです。