アメフトから始まったスポーツアパレルの新興「アンダーアーマー」はなぜ赤字になってしまったのか?

今回は、アメリカのスポーツ・アパレル企業「アンダーアーマー」についてまとめてみたいと思います。

創業者のKevin Plank氏は1972年生まれ(現在45歳)で、アメリカのメリーランド州出身。


メリーランド州はアメリカ大陸の東側で、ワシントンDCやボルチモアの近くにあります。

父親のWilliam氏は地域の高名な不動産デベロッパーで、母親のJayne氏はケンジントン市長を務めるなど、地方都市とはいえ、生まれはかなり良かったようです。

Plank氏は子供の頃からアメフトをして育ち、アメフトのトップ大学からの誘いを期待するも得られず。

地元のメリーランド大学に進学すると、アメフトチームでプレーしつつも自分で事業を始めます。その中の一つである「バレンタインデーにバラを宅配する(Cupid’s Valentine)」という商売で1.7万ドルを稼ぎ、そのお金がアンダーアーマーの創業資金となりました。

アンダーアーマーといえばピタピタシャツがトレードマークですが、そのアイデアが生まれたのはPlank氏が「フットボール場で最も汗っかき」と言われるほどに汗っかきだったから。

綿素材のシャツでは汗で試合中に何度も着替えなくてはならないため、吸水性と速乾性を兼ね備えた理想の素材を探します。


1996年に大学を卒業すると、23歳のPlank氏は見つけた素材を使ってプロトタイプを作ります。

かつてのチームメイトに試してもらい、彼らの一部がプロ選手になると他のプレイヤーにも使ってもらうよう以来。

地道な販促活動の結果、1年目には1.7万ドルの売上をあげたそうです。

1999年にはオリバー・ストーン監督、アル・パチーノ主演のアメフト映画「Any Given Sunday」に製品を提供。

その年、アメリカで最も話題になった映画に使われたことで一気に認知度が高まります。

勢いがきていると感じたPlank氏は、有名スポーツ雑誌『ESPN』に2.5万ドルもの広告を出稿。

当時のアンダーアーマーにとっては大きな賭けでしたが、その結果として売上は75万ドル増加。(Plank氏はこの時、はじめて自分に給料を支払ったそうです)

その後の数年で、アンダーアーマーはメジャーリーグやホッケーリーグを含むプロチームからの契約も獲得。


2003年には元チームメイトのNFLプレイヤー、Eric Ogboguを起用してテレビコマーシャルも展開。

キャッチコピーとして展開した「Protect This House」という言葉がアスリートの間で流行し、一気にスポーツアパレルブランドとしての地位を確立していきます。

2005年11月には株式を上場し、創業から10年以内に売上2億8,100万ドルという規模まで成長。


2017年までの業績推移を見てみましょう。

特に2010年から破竹の勢いで成長し、2016年には売上46億ドル、営業利益4億ドルに達しました。

しかし、その翌年の2017年には売上50億ドル弱、営業利益2784万ドルと利益が低迷。

4826万ドルの純損失を計上し、最終赤字に落ち込んでいます。


今回のエントリでは、スポーツアパレルの新興企業として勢いのあったアンダーアーマーがなぜ赤字に落ちてしまったのか、そして今後の見通しはどうなのかについて考えてみたいと思います。


製品カテゴリーごとの売上推移

まず、そもそもアンダーアーマーがどのように発展してきたのかをデータの側面から知っておきたいところ。

製品カテゴリーごとの売上高を見てみましょう。

アパレル(Apparel)商品の売上が33億ドル弱と最も大きく、2006年にスタートしたフットウェア(Footwear)売上が10億ドルと、それについでいます。

全体売上50億ドルのうち、47.7億ドルが物販収益ということで、アンダーアーマーはスポーツ用品の小売で伸びてきた会社であることが分かります。見た目通りですね。

パーセンテージで見てみると、シャツなどのアパレル製品への依存度が95%を超えていた2003年から、アクセサリーやフットウェアなどへの多角化を行うことで、収益を分散させてきたことも分かります。

直近ではアパレル売上の比率は66%、フットウェアが21%、アクセサリーが9%となっています。


メインの2ジャンルについて、売上成長率の推移を見てみましょう。

アパレル商品の売上は、2016年までずっと前年比15%以上の成長率を続けてきましたが、2017年に入っていきなり1.8%と、成長率が下がってしまいました。

それに合わせるように、フットウェア売上の増加率も2.69%と低迷。


地域ごとの売上推移

地域ごとの売上についても同じように見てみましょう。

かなり前から日本でも商品を販売していたイメージがありますが、実際には売上のほとんどは北米地域(North America)であげられています。

そして、2017年には北米地域での売上が38億ドルと、前年の40億ドルから減少してしまっています。

通常、企業が海外展開を目指す戦略としては、国内事業で着実に利益をあげながら海外事業に(赤字のまま)投資する、というのが通例です。

圧倒的主力の国内事業が減収になってしまったことが、全体の収益性に影響を与えてしまったのかもしれません。


実際にはどうなのか、セグメント損益の推移も見てみます。

やはり、2016年までは利益のほとんどを北米地域(North America)が稼いでいました。

4億ドルもの利益を稼いでいたのが、2017年にはいきなり2018万ドルしか稼げなくなってしまった、というのが事の真相のようです。

アジア太平洋地域は利益8204万ドルと堅調。


コスト構造の変化

ここまでで、北米地域の売上が2017年に減少してしまったこと、それによって北米地域の利益が20分の1にまで減少してしまったことが分かりました。

今度は、アンダーアーマーのコスト構造の変化について見てみたいと思います。

北米地域の売上減少は、コスト面においてどのようにインパクトを与えたのでしょうか?

このグラフの見方ですが、売上原価(Cost of goods sold)、販管費(Selling...)、営業利益(Income from operations)の三つを合計すると、アンダーアーマーの売上高になります。

つまり、売上高に対してどのくらいがコストとなっており、どのくらいが利益として残ったかというのをビジュアライズしたグラフです。


冒頭で確認したように、2010年のアンダーアーマーは毎年20%から30%ほどの売上成長を続け、それに対して営業費用も増大してきました。

ところが、2017年は売上の増加率がわずか3%にとどまってしまいました。

売上原価などの変動費は、売上の変化にほとんど対応するため、その増加も抑えられていますが、販売管理費には固定費も多く含まれるため、そう簡単にはいきません。

その結果、2017年は売上が3%増えたのに対し、売上原価は6%、販管費は14%も増えてしまいました。

その結果、利益がすべて吹き飛んでしまった、ということのようです。


どうして北米地域の売上が伸びなかったのか?

どうやら、販管費が増大し続けていることが、アンダーアーマーの利益が減ってしまった理由ということが分かります。

ただ、より本質的な問題は利益率の低下ではなく、「計画したようにアメリカ国内での売上が減少してしまったこと」です。

2016年末時点で、アンダーアーマーは11%から12%の増収を計画していました。

しかし、実際にはわずか3%程度の増収にとどまりました。

売上計画をベースに人材採用などの組織計画を実行するため、売上が伸びなかったら赤字になるのはある種当然です。


それでは、どうしてアメリカ国内での売上が減ってしまったのでしょうか?

まずは、2017年1Q時点でのアンダーアーマー自身による説明を見てみます。

「North American revenue declined 1 percent as new distribution was more than offset by the absence of business lost to bankruptcies in 2016.」

という一文が気になります。「2016年の破綻による損失よりも成長したので、1%の減収で済んだ」という内容ですが、2016年に一体なにがあったのでしょうか。


調べてみると、2016年3月、アメリカの大手スポーツ用品店「Sports Authority」が経営破綻しています。

Sports Authority Bankruptcy Disrupts Sporting-Goods Industry

それに始まり、Sport Chalet、Eastern Mountain Sports、Golfsmithなどが破産を深刻したり、スポーツ事業を清算。

このように、アメリカでは2016年にスポーツ小売産業における恐慌がやってきていました。

北米地域における四半期売上の推移をみると、確かに2016年の4Qあたりから売上が伸びなくなっているように見えます。

利益の減少はさらに顕著で、2017年4Qに大きな4000万ドルを超える赤字を計上。


実は、このアメリカ国内におけるスポーツ小売業界の不振の影響を受けているのは、トップ企業であるナイキも同じです。

NIKEは歴史の長い企業ではありますが、現在でも北米地域で前年比8%程度の成長を続けていました。

それが、2016年の後半から急に売上が横ばいになり、直近ではわずかながら減収となっています。


日本にいては全く実感を感じられませんが、アメリカ国内におけるスポーツアパレル不況はかなり大きな影響を与えていたようです。

恥ずかしながら自分もこれが理由とは知らなかったため、今後もアンテナを張りつつチェックしていきたいと思います。