今回は、フランスのファッション・コングロマリット企業「ケリング(Kering)」についてご紹介します。
ケリングの創業者は、現在の会長兼CEOであるフランソワ=アンリ・ピノーの父、フランソワ・ピノーです。
1963年、27歳のときに木材取引会社「ピノー・グループ」を設立。
その後、ずいぶん時間が経って1991年に小売業に参入、社名をピノー・プランタン・ルドゥート(PPR)とします。
1999年には名門ブランド「GUCCI」グループを買収し、ラグジュアリービジネスに参入。
2005年には息子のフランソワ=アンリ・ピノーにCEOの座を譲ると、2007年にはドイツのスポーツブランド『プーマ』を買収。
これによりスポーツ&ライフスタイルビジネスに参入することになります。
2013年には社名を現在の「ケリング(Kering)」に変更。
「Ker-」は発祥であるフランスのブルターニュ地方の言葉で「ホーム」を意味し、語尾の「-ing」が「先へ向かって動いている様子」を表すのが由来。
現在では120以上の国でビジネスを展開し、社員数も4万人(2015年末)の大企業に成長。
2012年以降の売上高はまさに右肩上がりです。伸び悩んでいた営業利益も、2017年度には10億ユーロ増加という伸びを見せています。
この記事では、ファッション業界のグローバルリーダーであるケリングの「現在の事業内容」・「グッチの恩恵?急成長の秘訣」・年次報告書(Financial Document)から分析する「財務状況」をご紹介します。
2012年以降ケリングでは、大きく分けて2つの事業部門が展開されています。 それがラグジュアリー部門とスポーツ&ライフスタイル部門です。
売上を比較すると、ラグジュアリー部門が107.9億ユーロ(2017年度)でスポーツ&ライフスタイル部門が43.8億ユーロ(2017年度)です。
ケリングのメイン事業として止まらずに成長を続けるのがラグジュアリー部門、比較的新しいながらも前年比売上5億ユーロ増の成長を見せるスポーツ&ライフスタイル部門と言えます。
それでは2つの部門をそれぞれ詳しく見ていきましょう。
ラグジュアリー部門
グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、アレキサンダー・マックイーン、バレンシアガなどのファション業界を代表するブランドを含む、計16ブランドからなるのがこのラグジュアリー部門です。
売上高(2017度)をブランドという視点からみると、グッチが57%で圧倒的割合を締めてることがわかります。
商品カテゴリーという点では、革アイテムが半分と占めています。
販売形式では、75%が直売店での売上、25%が卸売とその他という構成になっています。
ラグジュアリー部門の売上が最も大きい地域は34%でヨーロッパ。
それを多くの富裕層の存在を抱える中国を含むアジアが31%で追いかける形となっています。
スポーツ&ライフスタイル部門
プーマ、ボルコム、コブラの計3ブランドからなるのがスポーツ&ライフスタイル部門です。
2007年にプーマを買収することでケリングはスポーツ業界、カジュアルなアパレルに参入しました。
3ブランドからなるスポーツ&ライフスタイル部門ですが、売上の95%プーマが占めているというのが実態です。
商品カテゴリーでは、シューズとアパレルが売上の80%を占めています。
特徴的なのが、販売形式です。
先ほどご紹介したラグジュアリー部門では、75%が直売店での売上でした。しかしスポーツ&ライフスタイル部門では、直売店での売上はわずか23%である一方で、残る77%は卸売・その他からきています。
スポーツ&ライフスタイル部門の販売スタイルはラグジュアリー部門のそれと大きく異なっていることがわかります。
ヨーロッパで最も売上を上げている点を除けば、先ほど見たラグジュアリー部門と大きく異なる売上の地域分布ですね。
ラグジュアリー部門と比較して、北米、アフリカ地域でそれぞれ、10%程高い売上がある一方で、アジア地域での売上は15%程低い値が出ています。
この結果は、商品の価格帯を考慮すれば腑に落ちます。
例えば、ラグジュアリー部門の看板ブランドであるグッチのアパレル商品は20~30万程度するものばかりです。一方のスポーツ&ライフスタイル部門の看板ブランドのプーマのアパレル商品は数千円のものがほとんどです。
アメリカやカナダでは大都市の富裕層以外はあまり洋服にお金を使わないことや、比較的経済発展が遅れている南米やアフリカ、中東地域でのサッカー人気を考慮すれば、スポーツ&ライフスタイル部門の商品がより買われることにも違和感がありません。
ここからは、ケリングの急成長についてみてみましょう。
記事の冒頭でご紹介したように、ケリングの売上高は2014年から綺麗な右肩上がりです。最新の決算では2014度から54億ユーロの増加、前年比31億ユーロの増加という驚異的な成長をみせています。
どのようにしてそれを実現したのでしょうか。
上の図は2017年度の売上を2016年度のそれと比較したものです。
これを見ると、
グッチ +44.6%
ボッテガヴェネタ +2.4&
イブサンローラン +25.3%
その他ラグジュアリーブランド +14.1%
プーマ +15.8%
その他スポーツライフスタイルブランド -3.2%
と、ほとんど全てのブランドで売上が伸びていることがわかります。その中でも特に顕著な伸びをみせているのがグッチです。
グッチに限定して売上をみてみると、
グッチ単体で、43.7億ユーロから62億ユーロと20億ユーロの売上増をみせています。つまりケリング全体の成長の3分の2は、グッチの伸びの現れだったのです。
グッチは、時代をリードするコレクションの発表のみならず、全世界の有名人をファッションショーに招待し、それをSNSを通じて発信することなどでブランドイメージを確立しています。
特にインスタグラムを使った広告戦略に長けていて、2017年度の時点で1700万人程だったフォロワーも現在では、2400万人を突破しライバル企業LVMHの看板ブランド ルイ・ヴィトンの2410万人に追いつこうとしています。(2018年5/18時点)
そうしたブランドイメージの確立がグッチの成長に寄与していることは間違いありません。
ラグジュアリーブランド事業の好調を受けて、ケリングはプーマ事業の売却を発表しています。
この件については、2018年4月26日の株主総会で可決されたとのこと。
また、同じくスポーツブランドの「ボルコム」も売却することも発表されています。
収益性の高いラグジュアリーブランドに注力することで、ケリングの価値をさらに高めて行く戦略といえます。
最後に、年次報告書(Financial Document)を参考にケリングの財務状況を確認しましょう。
資産の内訳
総資産は2007年度282億ユーロをピークにして、2012年度まで減少していました。しかし、近年増加傾向にあり、2017 年度には255億ユーロほどの総資産を持っています。
では資産の内訳を見てみましょう。
最も大きな割合を占めるのが、無形資産で110億ユーロ程度が安定してあります。
また、のれん(Goodwill)が30億ユーロ以上あります。これは積極的な買収を行なっていることの現れと言えます。
負債・資本
資本・負債の合計はわずかに増加傾向にあります。
赤色の部分の資本(Share capital ・Capital reserves)は約30億ユーロという水準で一定です。
50億ユーロの借入金(Borrowings)を含む負債(Liabilities)は増加していますが、紺色の部分の利益剰余金も増加している為、自己資本比率は49%という高い水準で安定しています。
キャッシュフロー
ケリングは2007年にスポーツブランド「プーマ」を買収しました。その為、2007年度の投資キャッシュフローが30億ユーロを超えるマイナスを記録しています。
2015年は12億ユーロだった営業キャッシュフローが、2017年には倍以上に増えて30億ユーロという数字になっています。
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