グローバル化からEC化へと軸を移してきたウォルマートによる買収の歴史

ウォルマート・ストアズ

世界最大の小売企業であるウォルマート。

一般的にAmazonに押されていて、いずれディスラプトされる存在だと思われることも多いですが、年間売上では今も4858億ドルと圧倒的な規模を誇っています(Amazonは1359億ドル)。

営業利益率は3%と確かに低いものの、年間に生み出すフリーキャッシュフローは200億ドルを超えており、Amazonの2倍以上に及びます。

また、近年はEコマース企業を買収したり、Googleが提供する音声アシスタントサービス「Google Assistant」と連携するなど、時代に遅れないよう経営努力をしています。

ウォルマートには低価格を可能にするオペレーションという圧倒的な競合優位性があるため、Amazonとの戦いでもそう簡単には負けないだろうと個人的には予想しています。

米国の小売市場において最終的にAmazonとウォルマートのどちらが勝つか、というのは21世紀のビジネスにおけるビッグテーマの一つと言ってよいと思います。


さて、そこで今回はウォルマートが過去にどんな会社を買収してきたかを調べてみます。14社見つけることができました。

発表日 買収社名 買収先の概要(ジャンル、事業領域など)
1997年6月 Cifra メキシコのトップ小売企業
1999年1月 Asda イギリスの小売チェーン
2004年3月 Bompreço ブラジルの小売チェーン
2005年9月 Seiyu Group 日本の小売チェーン
2009年1月 Distribucion y Servicio チリの食料雑貨店
2010年2月 Vudu コンテンツ・デリバリー
2010年11月 Massmart 南米の小売チェーン
2013年10月 Reclip.It ソーシャルディスカバリーサイト
2013年10月 Bharti Walmart Private Limited インドの小売チェーン
2015年7月 Yihaodian オンライン食料品店
2016年8月 Jet.com 米国ECサイト
2017年1月 Shoebuy 米国の靴専門ECサイト
2017年2月 Moosejaw アウトドア用品小売
2017年6月 Bonobos 男性向けアパレルEC

この表を見るだけでも、ウォルマートがグローバリゼーションからEコマースへと買収の軸を移してきたことが見て取れます。

それでは1社ずつ見ていきましょう。


1997年6月 Cifra(12億ドル)

参考:Wal-Mart Investing in Mexican Partner

1997年にウォルマートはメキシコのトップ小売チェーンだったCifraの経営権を12億ドルで握りました。

記事では買収後にも「Cifra」の名前が残り続けるとしていますが、実際には2000年に「Walmart de México」に名前が変更されています

1999年1月 Asda(67億ポンド)

参考:Wal-Mart swallows Asda

1999年にはイギリスの大手小売チェーンであったKingfisherとの競売の末、同じくイギリスのスーパーマーケット・チェーン「Asda」を買収しています。

Asdaは現在もその名称のままで事業を展開しています。

2004年3月 Bompreco(5億ドル)

参考:Wal-Mart Announces Acquisition of Bompreco

Bomprecoは118店舗を有するブラジルのスーパーマーケット・チェーン。また、ハイパーマーケット「Hiper Bompreco」も展開しており、どちらも現在の名称のままでブラジルで事業を展開しています

この買収にはBomprecoの傘下にあったクレジットカード管理システム「Hipercard」も含まれており、およそ5億ドルの買収金額のうち、3億ドルはBomprecoに対するもので、残り2億ドルはHipercardのためだとしています。

2005年9月 Seiyu Group

参考:Wal-Mart Successfully Completes Tender Offer for Seiyu

2005年には日本のスーパーマーケットチェーンとしておなじみの西友グループも株式公開買付により買収しています。

2009年1月 Distribucion y Servicio

参考:Walmart Confirms Successful Tender Offer for D&S

2009年にはチリで最大の食品小売チェーンだったDistribucion y Servicio(D&S)も株式公開買付で買収。

2007年時点でD&Sは38億ドルの売上と180を超える店舗数を有していたそうです。

現在は「ウォルマート・チリ」に改名されています。

2010年2月 Vudu

参考:Walmart buys VUDU

2010年には動画ストリーミングサービスを展開するVuduを買収しています。

テッククランチの記事では、「VUDUのユニークなデジタル・テクノロジーと、ウォルマートの小売におけるサービスや拡張性によって、かつてないような家庭での娯楽の選択肢が得られる」としています。

正直、この買収はちょっと唐突な感じがしますね。協業としてはいいのかもしれないけど。。

2010年11月 Massmart

参考:Walmart Confirms Offer to Acquire 51% of Massmart

2010年には南アフリカで小売を中心とした事業を展開するMassmartの経営権を握りました。

Massmartは今もヨハネスブルグ証券取引所で取引されています。

2013年10月 Reclip.It

参考:Reclip.It Team Acquired by Walmart Labs

Reclip.Itはパーソナライズされたショッピング・リスト・アプリということで、小売チェーンからのデジタルクーポンやディスカウント情報などを扱っていたようです。

Walmart Labsによる買収ということで、何らかのサービスに統合されたのか、Reclip.Itはもうクローズしているようです。

2013年10月 Bharti Walmart Private Limited

参考:Bharti Enterprises and Wal-Mart Stores, Inc. Announce Agreement to Independently Own and Operate Separate Business Formats in India

Bharti Enterprisesはインドのコングロマリット企業。

同社とウォルマートはジョイントベンチャーとして「Bharti Walmart Private Limited」を運営していましたが、2013年に全ての持分をウォルマートが買い取っています。

現在はWalmart Indiaとして事業を展開しています。

2015年7月 Yihaodian

参考:Walmart Acquires Remaining Shares to Take Full Ownership of Yihaodian e-Commerce Business in China

2015年には中国のEコマースプラットフォーム、「Yihaodian(一号店)」を買収しています。

この買収は、Eコマースへの進出という以上に、中国市場にくさびを打ち込むという意味合いが大きかったのではないかと思います。

というのは、2016年にウォルマートはYihaodianをJD.comに売却しているからです。

Walmart sells Yihaodian, its Chinese e-commerce marketplace, to Alibaba rival JD.com

もちろん、これら一連の取引によって、ウォルマートの経営陣はEコマースに関する理解を大きく深めたに違いありません。

2016年8月 Jet.com(30億ドル)

参考:Walmart Agrees to Acquire Jet.com, One of the Fastest Growing e-Commerce Companies in the U.S.

ここまでくると記憶に新しいですが、2016年にウォルマートは米国のECプラットフォーム「Jet.com」を買収しています。

金額は30億ドルの現金と、3億ドル分のウォルマート株式というかなり大規模な買収。

これにより、ウォルマートは自社のEC事業「Walmart.com」の成長を加速させると同時に、Jet.comにもウォルマートがもつナレッジを注入できるとしています。

2017年1月 Shoebuy(7000万ドル)

参考:Jet Announces the Acquisition of ShoeBuy, a Leading Online Footwear Retailer

今年の頭には靴専門オンラインショップのShoeBuyを買収しています。

プレスリリースでは、Jetが親会社のウォルマートを通じて買収したとあります。

ShoeBuyは1999年創業ということで、Eコマース領域ではかなり歴史の長い企業だったようです。

2017年2月 Moosejaw(5100万ドル)

参考:Walmart Announces the Acquisition of Moosejaw, a Leading Online Outdoor Retailer

2月にはアウトドア用品のオンラインショップを展開するMoosejawを5100万ドルで買収しています。

Moosejawはオンラインだけでなく、10の実店舗も有していたほか、パタゴニアやノースフェースなど、500を超えるブランドを扱っています。

ウォルマートは、アパレル分野がEコマースにおける最大のカテゴリーだとした上で、その中に含まれるアウトドア領域で確立されたブランドをもっているという点を評価したようです。

2017年6月 Bonobos(3.1億ドル)

参考:Walmart to Acquire Bonobos and Appoint Andy Dunn to Oversee Exclusive Consumer Brands Offered Online

6月にはオンラインを中心に展開するメンズ・アパレルブランドのBonobosを3.1億ドルで買収。

Bonobosはオンラインで生まれたブランドで、創業から10年での買収となりました。

Jet.comやウォルマート店舗を通じて販売されるとのこと。

ウォルマートはEC戦略においてアパレル分野をかなり重視していることがわかりますね。