中国計画経済の中で創業!世界有数のパソコンメーカーとなった「Lenovo」は今後も発展できるか

Lenovo Group Ltd.

今回取り上げるのは、中国のパソコンメーカー「Lenovo」です。

家電量販店にいくと、ほぼ必ずLenovoのPCが売られていますが、会社自体について詳しく知る方は少ないのではないでしょうか。

2013年にはHPを抜いて、2016年までパソコン分野で世界トップシェアに輝いています。

直近でも世界で20%以上のシェアをキープしています。

業績推移を見てみましょう。

2007/3期の売上は140億ドルほどでしたが、2015/3期には463億ドルまで増加しています。

その後は少し減少傾向となっていますが、相変わらず巨大です。


今回は、Lenovoが一体どのような会社なのか、その歴史的経緯や現在の事業数値についてまとめてみたいと思います。


中国での計画経済の最中で始まったLenovoの歴史

創業以前の柳伝志の半生

Lenovoの創業者である柳伝志氏は、1944年生まれ。

1962年に高校を卒業したのち、軍のパイロットに応募しますが、親戚に保守主義者がいたということで失格となります。

仕方がないので中国人民解放军军事电信工程学院(現・西安電子科技大学)に入りますが、政治的な理由であまり重要な仕事はさせられないとのことで、レーダーを研究することに。

結果として、この中で柳氏はコンピューターについて学ぶことになります。


1966年に始まった文化大革命では、「知識人」として迫害の対象になり、マカオの近くの州立農場に送られます。

1970年にようやく北京に戻ってくると、コンピューター機関の技術管理者に就任し、メインフレームコンピュータの開発に従事します。

1984年には中国科学院の人事幹部に転職。

しかし同年、中国科学院からの出資を得て資本金2.5万ドルでLenovoの前身となる「New Technology Developer Inc.」を、科学院の10人のエンジニアとともに創業。

40歳の時のことでした。

当時の中国は計画経済の真っただ中であり、会社を創業するのは容易なことではなかったと言います。

パソコンメーカー「Lenovo」となるまで

1988年にはブランド名「Legend(联想)」として漢字入力機を開発し、国から科学技術の進歩に関する賞(the highest National Science-Technology Progress Award )を受賞。

1990年に最初の自社ブランドによるパソコン製品を販売開始すると、1995年には最初のサーバー製品を発売。

1996年にはパソコンメーカーとして初めて中国最大のシェアを握り、ラップトップ(ノートPC)も発売開始。

1999年にはアジア太平洋地域で最大のパソコンメーカーとなります。

2003年になると、海外進出を本格化するためにブランド名として「Lenovo」を採用することに決定。

理由は、「Legend」という名前だと海外での商標問題が予想されたから。

「Le」はLegendからの名残で、「novo」はラテン語の「新しい」という意味です。

IBMのパソコン部門買収と、世界トップシェアへの躍進

2005年には、IBMのパソコン部門の買収を完了(12億5千万ドル)。

それにより、Lenovoは「ThinkPad」などの有名ブランドを手に入れ、世界で3番目に大きなパソコンメーカーとなります。

買収から数年は「IBM」ロゴの使用も許されていましたが、徐々にロゴを外していき、2008年には「ThinkPad X300」で本格的な世界展開を開始。

2011年には日本電気(NEC)との合弁会社を設立し、NECのパソコン事業を実質的に傘下に収めます。

そして5年後の2013年、PC市場シェアで世界トップにまでのぼりつめました。

2014年には、Google傘下の「モトローラ」を2970億円で買収。これにより、モバイル分野でもシェアを拡大することを狙っています。


ちなみに、中国の国家機関が実質的な大株主にいることもあり、アメリカなどからは度々「スパイ疑惑」が出ているようです。

米国務省購入PCの「スパイ疑惑」にレノボが反論


Lenovoが展開する4つの事業

現在のLenovoの事業は、どのように展開されているのでしょうか?

事業部門(Business Group)として、大きく以下の4つを展開しています。

① PC and Smart Device Business Group (PCSD)

パソコンとスマートデバイスの事業部門です。タブレットやゲームなどもここに含まれます。(スマホは含まれない)

② Mobile Business Group (MBG)

スマートフォンをはじめとしたモバイル機器の事業部門です。

中国国内でのシェア拡大を目指す部門と、海外の新興市場・成熟市場で事業を展開する部門のさらに二つに分かれています。

③ Data Center Business Group (DCG)

サーバー機器などを販売するエンタープライズ向け事業部門です。

④ Lenovo Capital and Incubator Group (LCIG) and Others

スタートアップや新技術への投資を行う部門。


それぞれの売上は次のようになっています。

2014/3期を境に区分が変わっています。

基本的にはデスクトップPCよりもノートPCの方が売上が大きく、2013/3期までの売上成長を牽引しています。

パソコン以外の売上が大きくなったのはモトローラを買収した2014年以降で、それ以降もパソコンによる売上が全体の70%近くを占めています。


Lenovoの3つの競争戦略

Lenovoのアニュアルレポートを見ると、CEOから成長戦略「Three Wave Strategy」として次の三つが示されています。

① PCでのリーダーシップと収益性を維持する

Lenovoの優位性はあくまでもパソコン領域にあります。

今後も引き続き、パソコンやタブレットなどでの収益性をキープし、新しい成長領域とのバランスを取るとのこと。

② モバイルとデータセンター部門を新しい成長と収益エンジンに育てる

パソコン部門は「維持」することが目標であり、それではどうやって成長を目指すかというと、「モバイル」「データセンター」の二つ。

この2部門の多くは、モトローラの買収により成立していますが、利益が出ていません。

モバイル部門では、製品ポートフォリオを「Moto」ブランドに統一し、単一化することで経営の効率化を図ります。

通信キャリアとの関係構築にも力を入れており、次の上期では損益トントンまで持っていきたいとのこと。

データセンター事業では、市場が伸びている次の5つに注力しています。

・Hyperscale Infrastructure

・Software Defined Data Center

・High Performance Computing and Artificial Intelligence

・Solutionsbased Data Center Infrastructure

・Services

それにより、データセンター事業でも世界でトップ3に入ることを狙うそうです。

③ 新しいデバイスとクラウドに投資

三つ目は、「デバイス+クラウド」という新しい流れに乗ることです。

具体的には、「インテリジェント・デバイス」「インテリジェント・クラウド」「インテリジェント・サービス」の三つに注力するとのこと。

この三つが何なのかは正直よく分かりませんが、AmazonやGoogleも力を入れているスマート・スピーカーのことを言っているようです。


Lenovoはスマート・インターネットという新時代において、アプリケーションとサービス、ベストなユーザー体験を統合するスマートデバイス企業を目指すとのこと。

要するに、「パソコンは維持」「モバイルとデータセンターで成長」「新領域にも投資」と言っているだけで、斬新さは特にありません。


その他の事業数値

最後に、Lenovoのその他の事業数値をチェックしておきます。

資産の内訳

総資産272億ドルのうち、現金同等物は27.5億ドルほど。

無形資産(Intangible assets)が83.5億ドルとかなり大きくなっていますが、この多くは買収による「のれん」です。

負債と自己資本

借入金(Borrowings)は30億ドルほどで、全体の規模と比べればそれほど多くありません。

一方、資本金や利益剰余金が多いかといえばそうでもなく、買掛金などの流動負債が183億ドルと、かなりの金額にのぼっています。

自己資本比率

結果として、自己資本比率は15%ととても低い水準です。


キャッシュフロー

流動負債がとても大きいこととも関係がありそうですが、営業キャッシュフローは安定していません。

多い年では20億ドルを超えていますが、少ない年には1億ドル以下になることも。

当然、フリーキャッシュフロー もまばらです。

多い年で18億ドルちょっと。過去5年を平均すると、5億ドルほどです。

まとめ

1984年に創業し、中国経済の成長とともに世界有数のパソコンメーカーにまで登りつめたLenovoですが、アリババやテンセント(両社とも年間フリーキャッシュフローは100億ドル以上)など他の新興企業と比べると、とても儲かっているとは言えません。


止められない時代の変化の中で、彼らは今後も優位な地位を保っていけるのでしょうか。

個人的にはキツそうだなと思います。パソコン市場の収縮とともに、じわじわと経営が苦しくなっていくプロセスが目に浮かびます。

今回、分からなかった部分も多くあるので、これからも引き続き学んでいきたいと思います。