同じ旅行分野なのに、なぜエクスペディアはトリップアドバイザーの4倍もの収益があるのか

Expedia, Inc.

似たような業界で、共に巨大な規模でありながら売上高が4倍も違うExpediaとTripAdvisor。どうしてこうも違うのか、その理由を探ってみたい。

まずは2社のこれまでの経緯を軽く見てみる。

Expediaは1996年にMicrosoftの社内プロジェクトとしてスタートし1999年にスピンオフ、2001年に現IAC(InterActiveCorp)によって買収。2005年に再びスピンオフされ、NASDAQに上場した。

一方のTripAdvisorは、2000年に創業し、2004年に同じくIACによって買収されている。2005年にExpediaとともにスピンオフ(つまりExpedia社内でのサービス運営)され、2011年にTripAdvisor自体がスピンオフされた。

ややこしいが、2005年から2011年まではTripAdvisor自体がExpediaという会社の提供サービスの一つだった

ExpediaとTripAdvisorの売上を比較

まずは売上規模がどのくらい違うのかを比較してみよう。

Expediaの方がはるかに規模が大きい。だいたい4倍前後。

しかし、そもそもTripAdvisor自体がExpediaの一部だったんだからこうなるのが当然のような気もする。今でも、Expediaは多くの事業を傘下に抱えてるようだ。多くのグループ企業を傘下に抱えているからExpediaの売上が大きいのだろうか?

そこでセグメント別の収益を見てみると、「Core OTA(Online travel agent つまりExpedia本体)」の売上高が58億ドルとかなりの割合を占めている。つまり、ExpediaというサービスだけでもTripAdvisorよりも3倍以上売上高が大きいということがわかった。

どうしてここまでの差が生まれるのか?ビジネスモデル自体に秘密があるのかもしれない。

TripAdvisorのビジネスモデル

TripAdvisorのビジネスモデルは極めてシンプルで、運営する多くの旅行関連メディアにおけるクリック課金による広告収入が主な売上だ。2015年度の売上高15億ドルのうち、クリック課金広告の収益が9.6億ドルと全体の64%を占めている。

つまり、TripAdvisorは他事業への送客を主な価値とするメディアサービスだと言える。彼らにとって最も重要なのは月間累計3.5億人に及ぶグループ全体のトラフィックの大きさでありメディアとしての巨大なコンテンツ量とユーザーのネットワークこそが競争力と言える。

Expediaのビジネスモデル

一方でExpediaはどうだろう。

2015年度の年次報告書(Form 10-K)によれば、Expediaのビジネスモデルは「the merchant model」「the agency model」「the advertising model」の3つからなる。

「the merchant model」では、ホテルの部屋や航空券、車のレンタルなどの予約サービスを提供。そのうちのほとんどがホテルの予約だという。

「the agency model」は、つまるところ旅行代理店事業だ。Expediaを通じて、他の旅行サービス企業の旅行を予約することができ、Expediaはその手数料を受け取る。

「the advertising model」はよくある広告モデル。他サービスへの送客だ。

それぞれの収益はどのくらいあるのだろう。「Gross Bookings and Revenue Margin(総予約高と売上収益率)」という項目をみると、Gross Bookings(総予約高)は542億ドルで、そのうち10.8%が売上収益。Expedia上で542億ドルもの予約が行われ、そのうち55億ドルが彼らの売上になるということ。

Expedia全体(Core OTA)の売上高が58億ドルだから、売上のほとんどは予約による収入だということがわかる。

つまり、Expediaの競争力は年間に542億ドルもExpediaを通じて予約する人がいるということだと言える。日本円でいうと約5.5兆円。

Expediaの年次報告書には、「MAU」や「Unique visitors」などの文字は一切見つからなかった。同じ旅行という分野ではあるが、TripAdvisorとExpediaでは全く違う事業を行なっていることがわかる。

結論としては、TripAdvisorは「アフィリエイト(送客)ビジネス」であるのに対し、Expediaは「トランザクション(取引)ビジネス」であり、その違いが4倍もの売上規模の差につながっていると言える。