今回は、世界のM&Aランキングの中でも500億ドル以上のM&Aについて見ていきたいと思います。
大きなM&Aが起きる業界はある程度決まっており、通信(合計で5656.4億ドル)、メディア(3881.6億ドル)、製薬(合計で4206億ドル)、エネルギー(合計で3368.2億ドル)、消費財(合計で1535億ドル)です。
中でも、製薬のPfizerと通信のVodafoneは買収に積極的で、Pfizerは合計で2160億ドルを、Vodafoneは合計で2630.8億ドルをつぎ込んでいます、効果については今ひとつなのが正直なところです。
そこで今回は、買収後にその企業がどうなったのか、31件の中から厳選して見ていきたいと思います。
ランキング | 期日 | 買収元 | 買収先 | 買収額(億ドル) | 領域 |
1位 | 1999年 | Vodafone AirTouch | Mannesmann | 2027.9 | 通信 |
2位 | 2000年 | America Online | Time Warner | 1647.5 | メディア |
3位 | 2013年 | Verizon Communications | Verizon Wireless | 1303 | 通信 |
4位 | 2015年 | Anheuser-busch Inbev | SAB Miller | 1014.8 | 消費財 |
5位 | 2007年 | RFS Holdings | ABN-AMRO Holding | 981.9 | 金融 |
6位 | 1999年 | Pfizer | Warner-Lambert | 891.7 | 製薬 |
7位 | 2016年 | AT&T | Time Warner | 854.1 | メディア・通信 |
8位 | 1998年 | Exxon | Mobil | 789.5 | エネルギー |
9位 | 2015年 | Charter Communications | Time Warner Cable | 787 | メディア |
10位 | 2000年 | Glaxo Wellcome | SmithKline Beecham | 759.7 | 製薬 |
11位 | 2004年 | Royal Dutch Petroleum | Shell Transport & Trading | 745.6 | エネルギー |
12位 | 2006年 | AT&T | BellSouth | 726.7 | メディア |
13位 | 1998年 | Travelers Group | Citi Corp | 725.6 | 金融 |
14位 | 2001年 | Comcast | AT&T Broadband & Internet | 720.4 | メディア |
15位 | 2015年 | Royal Dutch Shell | BG Group | 694.5 | エネルギー |
16位 | 2014年 | Actavis | Allergan | 684.5 | 製薬 |
17位 | 2009年 | Pfizer | Wyeth | 672.9 | 製薬 |
18位 | 2015年 | Dell | EMC | 660 | IT |
19位 | 1998年 | SBC Communications | Ameritech | 625.9 | 通信 |
20位 | 2015年 | The Dow Chemical | DuPont | 621.1 | 化学 |
21位 | 1998年 | Nations Bank | Bank America | 616.3 | 金融 |
22位 | 2006年 | Gaz de France | Suez | 608.6 | エネルギー |
23位 | 1999年 | Vodafone Group | AirTouch Communications | 602.9 | 通信 |
24位 | 2004年 | Sanofi-Synthelabo | Aventis | 602.4 | 製薬 |
25位 | 2002年 | Pfizer | Pharmacia | 595.2 | 製薬 |
26位 | 2004年 | JP Morgan Chase | Bank one | 586.6 | 金融 |
27位 | 2016年 | Bayer | Monsanto | 566 | 化学 |
28位 | 1999年 | Qwest Communications International | US WEST | 563.1 | 通信 |
29位 | 1998年 | Bell Atlantic | GTE | 533.6 | 通信 |
30位 | 1998年 | BP | Amoco | 530 | エネルギー |
31位 | 2008年 | InBev | Anheuser-busch | 520 | 消費財 |
Mannesmannは当時、ヨーロッパで果敢にM&Aを行なっていたドイツを拠点とした通信キャリアであり、イギリスへの進出も伺っていました。
一方、Vodafoneもイギリスを拠点とした通信キャリアで、アメリカを拠点とした通信キャリアであるAirTouch Communicationsを買収していました。しかし、このままであるとMannesmannに買収されるとの思惑からVodafoneから買収を仕掛け、見事成功します。
このAirTouch Communicationsは後に、Verizon Communicationsと合弁となるVerizon Wirelessとなりますが、2013年にVerizon Communicationsにに売却。
Vodafoneは、合計で2630.8億ドルもの資金を買収につぎ込んだものの、時価総額は754.8億ドルにとどまっています。
製薬の場合、薬ごとに特許期間があり、1つ当たると数年間にわたって売上を立て続けることができます。中でも、1年間で10億ドル以上の売上を立てる薬を「Blackbuster drug」といい、Pfizerはこの「Blackbuster drug」を持つ製薬を立て続けに買収していきます。このように、優れた薬を持つ会社を立て続けに買収していくビジネスモデルをファイザーモデルと呼ばれることもあります。
その結果、500億ドル以上の買収を3件手がけ、合計で2160億ドルもの資金をつぎ込みます。(もちろん500億ドル以下の買収も多数手がけているので、もっといくと思います。)
ですが、日本の研究所をラクオリア創薬としてスピンオフしたり、動物・植物向け薬をZoetisとしてスピンオフするなどリストラを続けているものの、現在の時価総額は2105.7億ドルにとどまっています。
Citiを買収したTravelers Groupは、Sandy Weillが、American ExpressのCEOを辞職した後に、消費者金融を買収したことからスタートした金融機関で、生命保険・損害保険・投資銀行(Salomon Smith Barney)を買収することで巨大なノンバンク帝国となります。
一方、Citi CorpはJohn Reed率いる商業銀行でしたが、当時勢いのあったTravelers Groupに買収されます。しかし、合併当時は、商業銀行と投資銀行は分離して運営しなければいけないというグラス・スティーガル法に違反した状態での合併でしたが、その後すぐにグラム・リーチ・ブライリー法というグラス・スティーガル法を無効にする法律が制定されたことで、違法状態から解消されました。
この合併により、Citiは世界最大の時価総額を持つ全ての金融商品を扱うスーパーのようになりますが、損害保険事業はTravelersとしてスピンオフ、生命保険事業もMetLifeに売却されます。
Anheuser-busch Inbev は、様々な企業が合併して生まれた企業であるものの、主導してきた企業のは、Carlos Brito率いるブラジルを拠点としたAmBevでした。そして、そのAmBevのバックにいるのが、3G CapitalとWarren Buffetです。
これまでに、合計で1534.8億ドルを買収につぎ込み、現在の時価総額は2045.8億ドルとなっています。(500億ドル以下の買収も多々あるのでもう少し多いかなと思います。)
いかがでしたでしょうか。
一見輝くしく見える大規模なM&Aですが、正直上手くいったと言えるディールは限られると思います。
それは、PMIなのかもしれませんし、そもそも構想が間違っていたのかもしれません。
今回は、4社しか取りあげませんでしたが、他の企業のM&Aの実績についても、どこかでみていきたいと思います。