2023年には2倍の市場規模に!800社超が参入した戦国時代真っ盛りの「MVNO」まとめ(後編)

前編では、日本におけるMVNOの歴史から直近の市場状況まで、全体を眺めるような情報を中心にまとめました。

後編ではさらに具体的な情報として、現在の主要プレイヤーである2社の状況と、MVNO業界の今後の展望についてチェックしていきたいと思います。


業界トッププレイヤーとなった「楽天」

まずは、「IIJmio」を抜いて業界トップに躍り出た「楽天」です。


楽天はMVNOに参入する以前にも、2008年の「楽天ブロードバンド」や2012年の「楽天スーパーWiFi」など、通信事業に参入したい姿勢はたびたび見せてきていました。

そして、2014年10月に「楽天モバイル」により、NTTドコモのLTEネットワークを利用したMVNOサービスに参入。

運営母体は子会社のフュージョン・コミュニケーションズ(現・楽天コミュニケーションズ)。

2007年に東電から買収してグループ化されています。

月額料金は1,250円から、ASUSのスマートフォン「ZenFone 5」のSIMフリー端末を対応端末として採用しました。


2015年3月には「月額料金は据え置きで、高速通信容量を増やす」という施策を発表。

4月から適用され、3.1GBパックで月額900円からという料金体系を実現しています。

同じく4月には申し込み時の配送日時指定と 高速通信容量の翌月繰り越しに対応。


6月には初となるテレビCMの放映を開始し、サッカーの本田圭佑選手を起用しています。

「真っ向勝負。」というメッセージとともに「価格」「(ドコモの)回線」「楽天スーパーポイントが貯まる」という3点を訴求。


2015年7月、大阪に「楽天モバイル 心斎橋店」で専門ショップをオープンしたことを皮切りに、8月には仙台と神戸、10月には名古屋と銀座にも展開しています。

同様に上新電機やエディオンなど、量販店での取り扱いをスタート。


手応えを感じていたのか、11月には子会社のフュージョン社から「楽天モバイル」事業を楽天本体に移しています。

楽天とフュージョン、楽天モバイル事業の事業譲渡で合意


2016年6月には「楽天スーパーポイント」を使った月額料金の支払いが可能になったほか、通信と通話、端末料金までをセットにした「コミコミプラン」をスタート。

8月には「X JAPAN」のYOSHIKI氏をテレビCMに起用

2016年10月には最大30GBの大容量プラン、楽天モバイルの他利用者とデータを分けあえる「データシェア」サービスを開始


2017年8月には「iPhone」の取り扱いもスタートし、9月にはタレントのローラ氏をテレビCMに起用しています。


2017年9月にはプラスワンマーケティングが運営するMVNO事業「FREETEL」を5億2000万円で買収。プラスワンマーケティングは破綻しました。

『FREETEL』買収により、2017年11月にはMVNO契約数が140万回線を突破

正確な数字は書いてありませんが、『FREETEL』には40万回線くらいの契約数があったように見えます。

プラスワンマーケティングの2017年3月期の年間収益は100億円だったそう。ユーザーあたりの月額単価を2,000円とすると42万人が契約していた計算になるので、概ね正しそうです。

この頃には第二位のインターネット・イニシアティブの『IIJmio』を抜いており、個人向けMVNO分野としてトップシェアに立っています。

MM総研による調査

その後も楽天モバイルは契約者数を伸ばし、2018年1月にはおよそ150万に達しました。

3年で契約者7倍、売上6倍という急成長。

仮に、契約者一人当たりの月額単価を2,000円とすると、楽天モバイルだけでも年間360億円(推算)の売上をあげることになります。


楽天自身が決算資料でアピールしている楽天モバイルの戦術は以下の三つ。

① 販売ネットワークの拡大

後発のインターネット企業として、販売ネットワークを持っていないことは「弱み」であり、MVNO事業者の多くがオンラインでの直販に頼っていることは前編でも述べた通りです。

楽天はその状況を良しとはしていないようで、2018年7月時点で277店舗もの販売ネットワークを全国に展開しています(そのうち208店舗は量販店)。

② 取り扱い端末の拡大

二つ目は、取り扱い端末の拡大です。

消費者への訴求ポイントとして「端末を安く手に入れられる」という点を重視。既存の大手キャリアの販売戦略をかなり忠実に再現しようとしているようにも見えます。

ITMediaの記事によれば、2017年7月には58%が楽天スーパーセールにおける端末購入がきっかけで楽天モバイルに申し込んだとのこと。


③ 楽天エコシステムとのシナジー

そして外せないのが、約9,870万人いるとされる楽天会員とのシナジーです。アクティブ数は不明ですが、優に数千万人はいるはず。

ポイント好きな日本人にとって「楽天スーパーポイント」の存在は根強く、楽天カードが成功したのと全く同じ理由で「楽天モバイル」も成長していると言えそうです。

2016年度の決算資料によれば、当初の「楽天カード」と比べても「楽天モバイル」の出だしは好調だったとのこと。


第二位の「インターネット・イニシアティブ」

続いて、業界2位のインターネットイニシアティブです。

インターネットイニシアティブは1992年に設立された老舗企業で、国内で初めてインターネット接続サービスを開始した会社として知られています。

MVNO事業者としてのスタートも早く、2008年に法人向け「IIJモバイルサービス」をスタート。


2012年には個人向けサービスである「IIJmio高速モバイル/Dサービス」をスタート。


IIJmio

家電量販店やコンビニエンスストアに販路を拡大することで成長を牽引してきたそうですが、直近の伸びは楽天と比べるとかなり鈍化しているようです。


2016年1Q(6月末)には81万回線だったのが、そこから2年で104万回線に拡大。

前年同時期と比べると7.2%の増加ということになりますから、5年で倍増という市場拡大のペースにはついていっていないようです。

インターネット・イニシアティブの場合、企業向けMVNOサービスも展開しており、それも含めると総回線数は200万回線を超えています。

こちらは前年比で30%近く成長しています。

この中には、前述した個人向けの『IIJmio』のほかに、MVNO事業者向けに回線を「又貸し」するMVNEサービス、法人向けのMVNOサービスが含まれています。

法人向けMVNOサービスはIoT用途での販売を行なっており、今後の成長が期待される領域です。

2018年度1Q決算資料

数字を見てみると、法人向けMVNO回線の数は52万を超え、前年同期から80%近く増えているようです。


トップの楽天モバイルは、巨大な「楽天会員」と店舗ネットワークの構築、有名人を使った広告戦略によって個人ユーザーの拡大を目指しています。

一方のインターネット・イニシアティブは、老舗ISPならではのインフラを生かして法人向けやMVNEによってトータルでの契約数を伸ばそうとしているようです。

競争が激化するスマホ向けでの競争を避け、今後の成長が予想されている「IoT向け」に振り切っているようにも見えます。


2023年には2500万回線まで拡大

MVNO市場は今後も引き続き、急成長を続けていくことが予想されています。

MMRI

2018年の市場規模は1100万回線ほど。

これが5年後の2023年には現在の約2倍である2500万回線ほどに拡大すると予測されています。

要因としては、これまでのように個人向けスマホの契約回線が増えていくほか、IoTに対応したSIMの需要がさらに市場成長を加速させます。


前編でも述べたように、個人向けスマホのMVNO回線数は、大手キャリアの対抗策によって成長によって少しブレーキがかかっています。

そう考えると、現在のMVNO市場におけるトップ2社が「消費者向けの一強(楽天モバイル)」と「法人向けに強みを持つ通信系サービス(インターネット・イニシアティブ)」になっているというのは頷ける話です。


MVNO市場は上位6社の合計社が2017年9月末の56.8%から2018年3月末には62.8%へと増大し、寡占化が進んでいます。

また、ビッグローブは2017年1月にKDDIの子会社となり、LINEモバイルも2018年4月にソフトバンクの子会社になりました。

つまり、これまでの「キャリア対MVNO」という構図から、キャリア戦略下におけるMVNOという構図へと移ってきているわけです。

業界3位のNTTコミュニケーションズは言うまでもなくNTT系。


その一方でトップ2社の「楽天」「IIJ」は独立性をキープしています。

果たして楽天モバイルが今後も急成長を続け、MVNO市場を牛耳ることになるのか。

IIJが法人向けMVNO市場を握ることになるのか。

あるいはキャリア傘下の格安SIMが追い抜いていくのか。


まさしく「戦国時代」とも言える状況が続きそうです。