今日は、インドのユニコーン企業10社の事業内容をまとめてみたいと思います。
「ユニコーン」とは、未上場なのに評価額10億ドルを超えた企業に対する通称で、それだけ珍しい存在であることから注目度の一つの基準となっています。
それでは早速、評価額の上から順に1社ずつみてみましょう。
現時点でインド最大のユニコーン企業は、Eコマース・マーケットプレイスを展開する「Flipkart」です。
2007年10月に創業者二人でサービスをはじめ、2008年には毎日24時間のカスタマーサポート体制を確立。
2013年には1日で10万件の注文数を記録し、2014年に10億ドル以上の資金を集めます。
現在では登録ユーザー数1億人、月間配送数800万、毎日の訪問者数は1000万、21ヶ所の物流拠点、10万もの販売ユーザーが参加しています。
(ホームページ)
直近の評価額は116億ドルにも達し、インド最大のユニコーン企業となりました。
投資家にはタイガー・グローバルやeBay、マイクロソフト、テンセント、ソフトバンクグループ、ナスパーズなどそうそうたる企業が名を連ねています。
インドのユニコーン第2位は、Flipcartと同じくEコマース事業を展開する「Snapdeal」です。
サービス開始は2010年2月のことで、Kunal BahlとRohit Bansalによって創業。
販売ユーザー数は30万以上と、Flipkart(10万人)と比べると3倍以上多いことになります。
投資家にはソフトバンク、ブラックロック、テマセック、フォックスコン、アリババ、eBay、Intel Capital、ラタン・タタ(インドの財閥「タタグループ」の会長)などが参加しています。
M&Aにも積極的で、2010年には「Grabbon」、2012年「eSportsbuy.com」、2013年「Shopo.in」、2014年「Doozton.com」、2015年「Exclusively.com」「Rupeepower.com」「Freecharge」「Letsgomo」「martmobi」、2016年には「TargetingMantra」を買収しています。
One97 Communicationsは、モバイルウォレット「Paytm」を提供している会社です。
創業は2000年と古いですが、Paytmを開始したのは2009年のこと。ちなみに「Paytm」は「Pay through Mobile(モバイルで決済)」の略だそうです。
2014年にはスモールビジネス参加型の「Paytm Marketplace」を公開し、2017年時点で2億8000万人のユーザーと、500万ものビジネスユーザーがいるとのこと。
同時に、決済アプリとしてインドで初めて1億ダウンロードを突破しています(Google Play Store上)。
参考:Looking back at 2017 — Top 10 Interesting Facts from Paytm
Paytmでは、携帯電話料金や公共料金の支払い、航空券や地下鉄、映画のチケットなどの購入が行えるそうです。
2016年のデータですが、Paytmのユーザーは89%がモバイルで、70%がAndroidアプリを利用。
現在ではもっと増えていそうですね。
主な投資家にはアリババとAnt Financial(AliPay)、Intel Capitalなどがいます。
ソフトバンクも投資しているようです。
Japan's SoftBank invests $1.4 billion in India's Paytm
4社目はタクシーの配車サービスを提供するインド版Uberこと「Ola」です。
創業者のBhavish AggarwalとAnkit Bhatiは二人ともインドの名門工科大学「IIT」の出身で、CEOのBhavish Aggarwalはマイクロソフトの研究機関で2年勤め、二つの特許と三つの論文を公開したバリバリのエリートです。
Olaのスタートは2010年12月のことで、IITボンベイ校の同窓生だったAnkit Bhatiを誘って「10億人のインド人のための移動手段」を作ることを目的に創業。
Olaは、現地庶民のための移動手段であるオートリキシャやシャトルバスから、ビジネスパーソン向けの高級車までを幅広く扱っており、インド中で80万もの車を抱えているとのこと。
ドライバー数は90万人以上、従業員数は6000人を超えるとのこと。
Uberと競合していることでかなり激しい戦いを強いられているようですが、今後どちらが勝つことになるのか注目です。
参考:インドの配車アプリ「Ola」がソフトバンクから追加で3.3億ドルを調達するも、バリュエーションは2年前から30%超下げて35億ドルに
主な投資家にAccel Partners、ソフトバンクグループ、セコイア・キャピタルなど。
5社目は再生エネルギー関連の事業を展開する「ReNew Power Ventures」です。
創業は2011年と、かなり最近のこと。
最初から巨額の設備投資が必要なタイプの事業ということで、ビジネスプランを作って投資家にプレゼンする日々から始まったようです。
いくつか回ったところでゴールドマン・サックスからいきなり2億ドルの出資を受けることに。
2012年には風力エネルギープロジェクトを開始し、その後はソーラー発電などに事業を拡大しているとのこと。
その他の投資家に JERA、Asian Development Bankなどがいます。
6社目はある意味で一番ベンチャー企業っぽい「Hike」という会社です。
メイン事業はメッセンジャーアプリ「Hike Messenger」で、スタンプなどを送れることからLINEなどに近いのでしょうか。
2012年12月12日にサービスを開始し、2016年1月にユーザー数1億人を突破。
2016年8月にはテンセントやフォックスコンから1億7500万ドルを調達し、評価額は14億ドルに達しています。
その他の投資家にはタイガーグローバルやソフトバンクなど、おなじみのメンバーが揃っています。
2018年3月には新しいプロダクト「Total, built by hike」を公開予定。
インドでは、今でも人口の20%しかインターネットへのアクセスがないと言われており、彼らでも使えるようなサービスを提供するとのこと。
全てのサービスは1MB以下で提供され、データを1日1ルピー(1.6円)というとても安い値段で購入できるそうです。
7社目はEコマースを展開する「Shopclues」。
創業者は、ワシントン大学出身でウォール街のアナリストでもあったSandeep Aggarwalと、eBay出身のSanjay Sethiら。
2011年にFacebook経由のプライベートベータ版を公開すると、2012年には事業者の登録数は5000に。
2013年にはFacebook上のファン数が100万を超え、2014年にはインド発の卸売マーケットプレイスを開始。
2015年にはタイガーグローバルからの出資を受け、2016年には月間訪問者数が1億を超え、事業者数は50万に。
やたらと数が多いことからもお分かりのように、Shopcluesの特色は、インドに多数存在する中小規模のバザーをオンラインに持ってきた、という感じのマーケットプレイスで、型番のない商品が全体の3分の2を占めているとのこと。
(会社ページ)
ちなみに、Shopcluesには日本のインターネット企業「BEENOS」が2013年1月に初のインド案件として投資を行なっています(リンク)。
8社目はインド版食べログともいうべき「Zomato」です。
彼らのミッションは「誰もマズい食事にあわないように」というもので、ユーザーが周囲の良い飲食店を見つけられるようにします。
インドだけでやってるかと思いきや、Zomatoの事業は世界24か国で展開されています。
アメリカからなかなか出られないYelpとはえらい違いですね。。
扱っているレストランの数は120万、レビュー数は1000万、月間利用者数は1億2000万に達しています。
社員も多様で、国籍は32カ国で紅茶派とコーヒー派が半分ずつ存在しているとのこと。
InMobiはインド発のアドテク企業です。
創業者のNaveen Tewariはハーバードビジネススクール出身で、コンサルティングファームのマッキンゼーで働いたというコテコテのエリートです。
いろんな事業を模索する中で、広告領域に絞ろうと2007年に「mKhoj」として会社を設立。
名門ベンチャーキャピタルのKPCB(クライナーパーキンス)から出資を受け、それによってさらに優秀な人材が集まるなど成長が加速。
その後はソフトバンクから2億ドルの出資を受けるなど、ベンチャー企業としての存在感を強めていきます。
現在ではインド以外にオーストラリア、台湾、イギリス、アメリカ、中国などに拠点をもうけ、2011年末に開始した中国事業では、中国最大のアドネットワークの一つになるまで成長しています。
モバイルデバイス数は15億、広告主数は世界で2万を超え、毎日500テラバイトを超えるデータを処理し、月間600万ものアプリダウンロードのデータを受け取っているとのこと。
参考:How InMobi Grew From a Startup to a Giant Mobile Ad Network
最後に、インドでクラシファイド事業を展開するQuikrです。
「クラシファイド」とは、近所の人と物をやり取りするためのプラットフォームのことで、アメリカでは「クレイグズリスト」、日本では「ジモティー」「アッテ」などのサービスが含まれます。
2008年にインドのバンガロールで創業し、現在ではインドの1000を超える都市で事業を展開。
2014年にはタイガーグローバルから9000万ドルなどを調達し、累計調達額は3億5000万ドルに。
どうやってQuikrに広告を出稿するかを説明した動画があります。
Quikrでは、スマートフォンや家具、家電、車、バイクなどの商品を出品できるほか、仕事の募集や部屋のレンタル、家庭教師の申し込みまで、地元の事業をなんでもマッチングしてくれます。
Quikrへの出稿は基本的には無料ですが、表示回数を増やすための有料オプションを提供しています。
いかがでしたでしょうか。
インドの人口はすでに10億人を上回っており、2022年には中国を抜いて世界最大になることが予想されています。
しかし、今のところはユニコーン企業は10社のみと、アメリカや中国と比べれば大幅に少ない状態になっています。
ユニコーン企業の事業内容を見ても、Eコマースやメッセンジャーアプリなど、アメリカなどで既にヒットした事業の焼き直しという印象は否定できません。(悪いとは言ってない)
そう考えると、インドが本当に盛り上がるのはまだ先のことなのかもしれません。
また、今回取り上げた10社のうち、6社がソフトバンクグループから出資を受けています。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドが立ち上がるより先に出資していた会社も多く、孫さんのアンテナの高さを思い知らされます。
また、ヘッジファンドとして有名なタイガーグローバルもインドでのベンチャー投資を盛んに行なっているようです。
今後、この領域がどのように変化していくのか、今回のまとめを取っ掛かりに学んでいきたいと思います。