iPhoneの生産やシャープ買収などで知られる台湾のEMS企業「鴻海(ホンハイ)科技集団(英語名:Foxconn Technology Group」の子会社「Foxconn Industrial Internet Co Ltd(中国名:富士康工業互聯網)」(以下:FII)が6/8に上海証券取引所において新規株式公開を行いました。
目論見書によると、調達金額は271億人民元(約4600億円)で、中国市場においては2015年以来最大のIPOとなっています。
(企業サイト)
概要
2015 年3 月6 日に設立された比較的新しい子会社です。
中国広東省深圳市に位置しています。
中国の南端で香港に隣接する深圳は、テクノロジー系企業が集積しており紅いシリコンバレーとも呼ばれています。
法定代表人(及び董事長)は台湾出身の陳永正 (英語名:Tim Chen)氏で、2018年1月に就任しています。
1963年生まれで、1991年にシカゴ大学でMBAを取得しています。過去にはMicro softのGreater China地区のCEOを務めるなど豊富な経験を持つ人物です。
2017年までの業績を見てみましょう。
2015年、2016年は2700億元(約4兆5630億円)ほどの売上を維持し、2017年には3500億元(約5兆9150億円)を突破しています。
営業利益率は6%ほどとあまり高いとはいえません。
今回のエントリではここまでの資金調達を可能としたFIIがどんな事業を行っていて、この大型IPOがどのような目的の下に行われたのかについて見ていきます。
フォックスコングループの概要
グループ正式名称は鴻海科技集団(英語名:Foxconn Technology Group)で、主に大手メーカーの製品を受託生産しています。
本社は台湾で、生産拠点の多くが中国にあります。
創業者の郭台銘(英語名:Terry Gou)が1974年にグループ中核企業である鴻海精密工業を設立し、1991年に台湾証券取引所に上場しています。(企業サイトより)
2016年の同社売上は約4兆3600億台湾ドル(約13兆9500億円)となっています。
この鴻海精密工業を中心にいくつもの傘下企業を有するグループで、今回上場するFIIもそのひとつです。
M&Aを積極的に行っており、2016年にはシャープを買収しています。
FIIの売上構成
iPhoneの部品製造、ネットワークスイッチ、ルーター、webサーバー、スマートホームゲートウェイなどの開発および販売を行っています。
Amazon、Apple、ARRIS(イギリスの通信会社)、Cisco、Dellが売上の72.98%(2017年)を占めていて、 HPE、HUAWEI、Lenovo、NetApp、Nokia、nVidia等も顧客となっています。
製品別売上高を見てみましょう。
通信ネットワーク機器の割合が高く、60%を超えています。
(企業サイトより)
中でも、スマートフォンのフレーム等の部品が主力となっているようです。
続いて、データセンターなどのクラウドサービス機器が30%強となっています。
(企業サイトより)
精密工具や産業ロボットは1%にも達していません。
コスト構造
コストの内訳を見てみると、売上原価(营业成本)が毎年ほぼ90%ととても高くなっていることが分かりました。
生産に使われるプリント基板、パーツ、ウエハー、ガラス、金属材料、プラスチック等の原材料が売上原価の90%以上を占めるそうで、これらの将来価格によってはコストがかさみ、利益率を押し下げる恐れがあると目論見書で言われています。
それではFIIの財務状況を見ていきます。
資産の内訳を見てみます。
総資産は約1486億元(約2兆5113億円)。現預金(货币资金)の割合はおおむね10%ほどで推移しています。
資産の中で一番大きい割合を占めるのは売掛金(应收账款)で、2017年には785億元(約1兆3266億円)と約53%を占めています。
棚卸資産(存货)も20%以上と比較的大きな割合を占めています。
負債(负债)と純資産(股东权益)の内訳です。
短期借入金(短期借款)が2017年に増えているものの依然として少なく、借入金への依存度は低いと言えます。
バランスシートの右側で一番大きな割合を占めるのは買掛金(应付账款)です。
続いてキャッシュフロー(現金流量)を見てみましょう。
営業キャッシュフロー(经营活动产生的现金流量净额)はいずれの年もプラスになっています。
投資キャッシュフローを見てみると毎年20億元(約338億円)ほどの安定した額が計上されていることがわかります。
財務キャッシュフローに関しては、2015年・2016年共にマイナスが計上されており、2016年には200億元(約3380億円)を超えています。
これは内訳を見てみると、借入金の返済ではなく債券発行などに際してかかるコンサルティング費用などその他の費用となっています。
続いてフリーキャッシュフローも見てみましょう。
フリーキャッシュフローは2015年の設立以来プラスが続いています。
2017/12には少し減ってしまったものの、100億元(約1690億円)近いキャッシュを生み出しています。
キャッシュを生み出す力が非常に高いです。
企業価値(EV)を見てみましょう。
(Reuters)
時価総額は3911.5億元(約6兆6104億円)です。
現預金が、155.2億元(約2623億円)、有利子負債が69.6億元(約1176億円)なので実質的な市場評価額は3997.1億元(約6兆7551億円)と計算できます。
ではこの新規上場によって得られた資金をどのように使っていくのか見ていきます。
現状の工場設備のアップデート等に加え以下のようなプロジェクトに充てられます。
・インダストリアルインターネットのプラットフォーム構築(21億1678万元;約357億7400万円)
生産工場の全面ネットワーク化、クラウド化を図り、工場内全てのモノどうしを繋ぐことで全自動での製造を目指します。
・5GやIoTソリューションの研究開発など (6億3288万元;約106億9600万円)
5G通信技術の開発やIoTについての研究に使うようです。
・スマートマニュファクチャリングの新技術R&D・生産能力増強など (173億1451万元;約2926億1500万円)
スマートマニュファクチャリングは、工場内の設備にITやロボット、AIなどを活用し、生産性の向上を図る技術全般のことを意味するものです。
計画されているR&Dではセンサー、小型通信装置、データ収集機器、8K 映像技術による検査機器などをカバーする予定です。
自社の製造工程をスマート化すること、i phoneを含むスマートフォン部品などの通信機器製造への依存度が高いところから脱却しようとしていることが伺えます。
中でもスマートマニュファクチャリングは、2015年に中国政府が打ち出した中国製造業の10年間ロードマップ「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」で推進されている動きであり、多数の中国生産工場で導入されていくことが予想されます。
(中国3D打印网)
また、上海取引所に提出された資料を見てみると、アリババ・テンセント・バイドゥも発行された株式を購入しています。
(17:アリババ、18:テンセント、19:バイドゥ)
単なるスマートフォンの受託に留まらず、他分野でも発展していくことが中国インターネット企業の巨頭3社からも期待されていると言えそうです。
今回のIPOによる事業拡大が上手くいけば、FIIのスマートフォン製造への高い依存が解消され、更なる発展が見込まれるのではないでしょうか。