世界12ヶ国に1,412店舗を展開!独自のフランチャイズ制度で潤沢なキャッシュフローを稼ぐ「壱番屋」

壱番屋

カレーチェーン店『ココイチ』でお馴染みの「壱番屋」について見ていきたいと思います。

創業者の宗次徳二氏は、かなり壮絶な生い立ちを歩んでいます。

1948年に石川県で生まれたとされますが、生後間もなく孤児院に預けられたため、実の両親は不明。

3歳のころに宗次福松・清子夫婦の養子になるも、養父は競馬やパチンコなどのギャンブル好きで働かず、生活は極貧。

愛想をつかした養母は失踪し、養父からは箒で殴られるなど虐待を受けます。


徳二氏が15歳になるころ、養父が胃がんで亡くなり、養母と同居するように。

1967年に愛知県立小牧高校商業科を卒業して不動産業の八洲開発に就職。

1970年に大和ハウス工業に転職し、同僚の直美さんと出会って結婚しています。

喫茶店から生まれたCoCo壱番屋

結婚してから2年後の1973年に独立して不動産仲介会社を開業するも、収入は安定しません。

そんな中で現金収入を得るために1974年にオープンしたのが喫茶店「バッカス」でした。

初日からお客さんが入り、接客重視の営業方針を打ち立るとバッカスは大繁盛。

喫茶店が天職だと直感した徳二氏は不動産業をやめ、1975年に2号店となる珈琲専門店「浮野亭」を開業。

しかし、人気メニューは直美さんの作ったカレーでした。そこでカレー専門店へのシフトを決断。

1978年、「ここが一番や!」という思いから名づけられた『CoCo壱番屋』1号店を愛知県で開業します。

そして、世界最大のカレーレストランチェーン店に

夫婦で励まし合いながら店に立ち続け、着実に「ココイチ」のファンを増やすと、1982年に(株)壱番屋を設立。

2002年には宗次氏は53歳の若さで経営から退き、19歳でバイト入社した浜島俊哉副社長を社長に昇格。

直美氏は会長につきました。

2004年に東証・名証二部に上場し、翌年の2005年にそれぞれの市場一部に昇格。

2013年には「世界で最も大きいカレーチェーン」としてギネス世界記録に認定されています。

2015年にハウス食品グループからの株式公開買付により、同社の連結子会社となりました。


壱番屋の10年の業績推移を見てみましょう。

2018/2期の売上高は494億円。急激な成長ではありませんが、2010/5期の380億円から着実に拡大しています。

2017/2期はハウス食品グループの子会社になったことで決算期が変更になり、9ヶ月の変則決算となりました。


世界最大のカレーチェーン「壱番屋」の売上494億円の中身はどうなっているのでしょうか?

今回のエントリでは壱番屋のビジネスモデルや財政状態などについて見ていきたいと思います。



社員の独立支援制度「ブルームシステム」とは?

壱番屋には「カレー事業」と「新規事業」の2つの事業があります。


①カレー事業

世界最大のカレー専門チェーン「カレーハウス CoCo壱番屋」を展開しています。

カレーはソース(ポーク、ビーフなど)、辛さ、トッピングを選択することが可能。

日本だけでなく、中国、シンガポールなどのアジア各国やアメリカ本土に店舗を展開しています。

カレーハウスCoCo壱番屋

店舗数は、国内1,258店(うちフランチャイズ1,102店)、海外154店で、海外はすべてフランチャイズ店です。

国内2位の「ゴーゴーカレー」でも80店舗(2018年6月13日時点)ですから、1,000店舗を超えているのは圧倒的です。


「ココイチ」がフランチャイズ中心となっている背景には、独自のフランチャイズ制度「ブルームシステム」があります。

まずは正社員として壱番屋で経験を積み、一定以上の評価をもらったら独立(=フランチャイズオーナーになる)を支援するという制度。

ホームページより)

一般的なフランチャイズではすぐに独立することができますが、ロイヤルティ料が高かったり、経営に行き詰まるリスクが大きくあります(コンビニとかコンビニとか)。

壱番屋のブルームシステムは、正社員を経た上での独立なので、時間はかかるものの成功確度は高く、なおかつロイヤルティ料はありません。

壱番屋の債務保証制度を利用して銀行から融資を受けることができるため、自己資金ゼロ円でも独立することができます。

実際に独立できるのは1割未満の狭き門ですが、フランチャイズオーナーの経営継続率は約90%(2015年11月時点。データ古い..)となっています。


ライセンスフィーなしでどうやって売上を立てているかというと、「加盟金」「商品代金」の二つがメインです。

フランチャイズオーナーは、カレールーをはじめとしたほとんどの材料を壱番屋もしくは指定業者から仕入れなくてはなりません。

そのほかに、客席数に応じた加盟金を納めるという仕組みになっています。

②新規事業

カレーライス専門店以外に、名古屋発祥のあんかけスパゲッティ専門店「パスタ・デ・ココ」、カレーらーめん専門店「麺屋ここいち」、ハンバーグ&とんかつの店「にっくい亭」があります。

ホームページより

パスタ・デ・ココは33店(うちフランチャイズ7店)、麺屋ここいちは5店、にっくい亭は5店。

CoCo壱番屋に比べるとこれらの店舗数はまだかなり少なく、あくまでも将来のための投資という側面が強そう。


業態ごとの売上高を見てみましょう。


フランチャイズ中心の店舗展開なので、売上もフランチャイズが308億円と最大です。

直営店は121億円、海外では58億円の売上をあげています。

2014/5期と比べると、直営店は150億円から121億円に減少していますが、海外は11億円から58億円に増加しています。

海外事業の売上が増えたのは、2017年3月に親会社「ハウス食品グループ」の海外飲食事業会社を子会社化したため。

どちらも『ココイチ』をフランチャイズ展開していたようで、順当な買収です。

2018/2期の1年で14店舗の新規出店に対し、21店舗を退店しており、海外事業規模は縮小しています。


続いて、営業利益の内訳を見てみましょう。

フランチャイズ店による営業益が92億円と、グループ全体のほとんどを占めています。

直営店による利益は減少傾向で、直近では9億円、海外事業は2億円の利益を生み出しています。


利益率を計算すると、直営店8%に対してフランチャイズ店が30%、海外は5%。フランチャイズ店からの利益率が高いことがわかります。


続いて、店舗売上高と店舗数から、1店舗あたりの売上を計算してみます。

店舗あたりの売上は年間6025万円(2014/5期)から6654万円(2018/2期)と、年々拡大しています。


海外での店舗売上も見てみましょう。

直近(2018/2期)の数字をみると、中国25億円、韓国18億円、タイ17億円が上位3ヶ国となっています。

中国、台湾、ハワイにおいては2016/5期まで売上が増加し、2018/2期で減少。

それ以外の地域では2011/5期から売上は増加しています。


国別の状況をみてみます。

アメリカ本土での客単価が1,469円と最も高く、日本の922円を大きく上回っています。


飲食チェーンとは思えないキャッシュリッチさ

続いて、壱番屋の財政状態についてみてみます。


総資産418億円のうち現預金は187億円と、飲食店にしてはかなりのキャッシュリッチです。

また、有形固定資産が124億円弱ととても大きくなっているのも特徴的。

(右側が2018/2期)

その中でも大きいのは「土地」で、55億円近い土地資産を抱えています。

設備の状況をみると、直営店187店舗のほかに、加盟店129店舗の不動産を自社で所有しています。

フランチャイズオーナーの店舗用地は、賃貸物件を借りる場合が多いはずですが、壱番屋自身が自ら貸し出しているケースもかなり多いことがわかります。

背景としては、直営店をフランチャズ化してきたからだと思われます。


資産の源泉となる、負債・純資産を見てみましょう。

利益剰余金が267億円と最大。

壱番屋の187億円もの現預金は、自社事業の利益がそのまま残っていると言ってよさそうです。


続いて、キャッシュフローも見てみましょう。

毎年、安定して50億円前後の営業キャッシュフローを生み出し、それを設備投資や株主還元にあてています。

営業キャッシュフローから設備投資額を引いたFCF(フリーキャッシュフロー)を計算してみます。

2018/2期におけるFCFは38億円。

通常の飲食店としてはありえないほどのキャッシュ創出能力の高さです。


成長戦略:国内の収益性改善と海外進出

これだけの優良企業ですから、株価は上昇傾向にあります。直近(2018年6月13日)での時価総額は1650億円。

借入金はなく188億円の現預金があるので、実質的な評価額は1462億円と計算できます。

それに対して38億円のFCFを生み出しているため、その38.5年分の評価となっています。


壱番屋は、「第6次中期経営方針」として、2021年2月期まで「成長軌道に向けた経営基盤強化と魅力あふれる企業への進化」というテーマを掲げています。

これではよくわからないので、少し具体的に見てみます。

第36期 株主通信

国内では、根本的な魅力アップと収益基盤の再構築を進め、既存店売上の1%成長を最重要課題として取り組みます。

さすがにもう1200店舗ありますから、国内店舗を大きく増やすのは難しいのかもしれません。なので、1店舗あたりの収益性を上げると。


そして、海外では積極的に出店を進め、3年で300店舗体制を目指すとしています。現在のおよそ2倍の規模。

イギリスに子会社を設立しているほか、ベトナムにも出店を準備しています。

日本のカレーライスは、インドからイギリスを経由して、明治時代に日本に伝えられた経緯があり、ロンドンには日本式のカレーライス店舗もすでに存在するそうです。

このように、すでに「日本式カレー」が受け入れられそうなエリアを中心に出店を進めていくという戦略。


ただ、壱番屋の海外売上は58億円(2018/2期)ですから、これが倍増しても全体で10%程度の増収にとどまります。

これまでも成長ペースは速くないながらも着実に成長してきた壱番屋。今後も着実に伸ばしていくことになりそうです。